「ブラック企業実態調査の結果からみえるもの」 ~非正規雇用フォーラム総会開催~
第9回非正規雇用フォーラム・福岡の総会を60人の参加をえて、福岡市人権啓発センター研修室で開催しました。
小泉構造改革以来の規制緩和はワーキングプアと呼ばれる低賃金で不安定な非正規労働者の増大、正社員を含めた労働者全体の賃金の低下、心身の健康を損なう長時間・過密労働など深刻な問題を生み出しました。
非正規労働者の数は、今や2000万人になろうとし、全労働者の約38%と過去最高に達しています。
中でも女性労働者の占める割合は70%近くにものぼり、正社員が当たり前の時代から非正規雇用が当たり前の時代となってきています。
労働環境に関する深刻な課題が山積している中、経済成長の手段として、雇用規制の緩和を行い、労働者を犠牲にするにことは許されず、長時間労働・過労死の防止、「ブラック企業」への対策強化など、早急な具体的な施策を実行すべきです。
総会後には、「ブラック企業実態調査の結果からみえるもの」というテーマで、ブラック企業の疑いがある事業所の実態調査をされた西日本新聞社会部の竹次記者に講演をいただきました。
~ブラック企業実態調査の結果からみえるもの~
■厚労省が昨秋、集中調査
昨年9月、厚労省は九州で697社、福岡で186社のブラック企業集中抜き打ち調査を実施した。
その結果について、詳しく知りたくて福岡労働局に情報公開請求を行ったところ、186社の「復命書」(調査概要)、「是正勧告書」(違法内容の指摘)、「指導表」の3点セットが企業名は黒塗りながら開示された。
対象企業はもともと「ブラック」が疑われていたとはいえ、違法な時間外労働、残業代未払い、最低賃金以下、36協定を結んでいない、労働時間を把握していないなど、労働基準法違反が9割に及び、スーパーマーケットをはじめ運輸業、福祉施設、タクシーなどの違反が目立った。
福岡労働局内で、労働時間が100時間の過労死ラインを超える企業が24.7%に及ぶことも確認でき、美容業では労働時間を把握していない、中小企業では労基法が理解されていないことなども分かった。
これらに対し、労働局としては集中調査に加え、大学生向けの労働法出前講座の拡充、離職率を公表する「反ブラック企業宣言」制度の導入、労働基準監督官の拡充などの対策にとりくんでいる。
また、「ワークルール検定」を実施するなど、労働者自らが労働法を身につけるようにするとりくみも始まっている。
労働者を守る権利は、高校、大学でもっと学習する機会を設けることが必要だ
■これがブラック企業!
●一坪25万円の安さの住宅を売りに、売上を伸ばす企業の事例
残業代未払いを従業員が労基署に申告して発覚した。
是正勧告を受け、過去2年間分の残業代を一律10万円の支払いで収め、同時に賃金構造を「基本給+歩合+固定残業代」に変更した。
ただし、基本給を5万5千円下げ、固定残業代を6万円にし、実質は5千円の賃上げにしかなっていない。
これでは解決にならないと指摘しても、会社側は、「未整備だが少しずつ改善しているからいいじゃないか。」と開き直った。
この企業は、労務管理担当者がおらず、社長のワンマン経営になっている。
企業の成長のためには、人に対する投資をしっかりやることが肝心で、この企業には将来の発展性がないといえる。
●ある廃棄物処理会社に、前の会社をリストラされ、社長に救われて入社した50代の男性の事例
未経験だったが、建物解体の営業、現場調査、見積もり計算を一人でこなす役回りについた。
残業が月に170時間を超えることもあり、加えて、一方的に給与が歩合制に変えられ、事業の赤字を労働者の給与で穴埋めするルールまで導入された。
200万円の赤字の給与からの天引き、夜のアルバイトの掛け持ち、さらに500万円の自己負担を迫られた、妻のパート先まで催促の電話をかけられた。
「家族を巻き込むことはできない。」と、妻と相談して組合に駆け込み、支払いを回避できた。
さらに、労働審判未払い残業代も取り戻すことができた。
妻の助言がなければ過労と精神的ダメージでどうなっていたか分からないという。
●独立して自営の運送会社を立ち上げた30代後半男性の事例
宅配の荷物1個を請け負って150円。
出来高制なので、留守宅を訪ねてもお金にならない。
朝6時から夜10時までの過酷な労働時間、1日に数千円で、ガソリン代にしかならない日もある。
運送業は建、1次、2次、3次下請けの構造で低賃金におかれているのだ。
規制緩和で同業他社が乱立しダンピング競争にさらされ、通販の「送料無料」でも配送は「犠牲」を強いられる。
サービス拡充の裏側には、低価格の運送料で働くことを余儀なくされる人たちが存在するのだ。
■「ブラック企業」の定義は今、あらゆるところに拡大中
「ブラック企業」はもともと、「新興企業で、若者を大量に採用し、過重労働・違法労働によって使いつぶし、次々と離職に追い込む成長企業」と定義されてきた。
しかし、広義に捉えるとそれだけではない。
「違法な労働を強い、労働者の心身を危険にさらす企業」や「若者、女性、非正規労働者、下請けという労働弱者にしわ寄せが当たる構造」、「民間企業だけでなく公務にも犠牲を強いる構造」が広がり、「ブラック企業」の定義は今まさに拡大中なのだ。
違法な企業がまかり通る中で、労働の規制緩和がすすめられていいはずがない。
「ブラック企業」という言葉は、働く現場のおかしい実態をあぶり出すため使える言葉だ。
労働者に保障された権利、相談窓口など学習し伝えて、働く現場のおかしさを共有することが重要だ。
そして、労働者がワークルールを学び、社会としても「それはおかしい。」という共通感覚を育てていくことが必要である。
■社会全体の「ブラック企業」化にNO!!
取材を通しての竹次記者の問題提起で、私たちの身の周りの至るところに「ブラック企業」化が浸透していることがよく分かりました。
先の通常国会で「過労死等防止対策推進法」が成立し、年内に施行されることになっています。
その一方で、6月24日に発表された新たな成長戦略には、労働時間規制を適用除外する「ホワイトカラーエグゼンプション」の導入が盛り込まれました。
年収1000万円以上、職務の範囲が明確で高度な職業能力を持つ労働者を対象とするとしていますが、働く現場に「残業代ゼロ」の長時間労働がなし崩し的に拡大していくことが懸念されます。
相矛盾した2つの政策が当たり前のように成立していくというのは、政府自体が「ブラック企業」化している証拠です。
私たちは職場・地域から力を結集し連帯して、社会の「ブラック企業」化に立ち向かっていかなければなりません。
(*非正規雇用フォーラム・福岡 第32号より)